準備で勝つ話

ある方が夏休みをたっぷり取って、久しぶりに仕事を再開したら腰が痛くなったという。身体を診ると腰に炎症が起こっている。腰がビックリしたわけである。本人はたっぷり休息を取ったから、これで年末までたっぷり働けると思っていたが、実際は逆であった。こういう方を診るたびに、「準備で勝つ」という言葉が浮かぶ。ゴルフでいつも同じ所に腰痛が出る場合、痛くなる前から湿布を貼っておけば楽に過ごせる。宴会の季節になるとテレビで、「飲む前に飲む」とやっているが、あれは中身が安中散といって消化を助ける。食べ過ぎを前もって予防しているわけである。我々の治療も準備がものをいう。最近がんや鬱病、アトピー性皮膚炎が多いが、前もってこういう場合はこれを準備とやっておかないと患者さんが来てからでは遅い。中々準備をせずに行き当たりばったりではうまくいかない。育ちが良くてお殿様やお姫様なら、「こんなになっちゃった。誰か何とかして。」と言っていればいいが、一般の方は中々そうはいかない。何か問題が起こったときには、「想定内」となっていることが好ましい。病院で薬をもらって副作用が出たときに、医者から、「こんな症状が出るとは全く考えていませんでした。驚きました。」と言われると何とも不安である。しかし「この症状は予想していました。ではすぐに中止して薬を変えましょう。」と言われれば安心する。先生の準備力によって患者の心理が変わる。よく職人さんが、「段取り八割」というがまさにその通りである。私も以前に夏休みを8日間ぐらい頂いて、仕事を再開した途端に手の炎症に悩まされた。8日間手を使わず、いきなり使うと手がびっくりしてしまう。実験したら4日間までなら大丈夫だが、それ以上の休みの場合は、前日ぐらいに手を慣らさないと炎症が起きてしまう。これも準備である。休みと仕事は全く身体の環境が違うので、完全休暇も大切だが、仕事の前にはアイドリングぐらいしておく方がいい。

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