腹のくくり方と身体の関係

仕事柄芸能関係の方を治療することがある。
舞台やコンサートを見に行くと、私が治療した所ばかり気になり、内容などは殆ど覚えていない。
この間治療した膝は大丈夫だろうか?
坐骨神経痛は悪化していないだろうか?
胃炎は治まっているのだろうか?
楽器はちゃんと演奏できるのであろうか?
そんな所ばかり見てしまうのは職業病であろう。
海外も含め、地方公演の後など、「今回の地方公演は大変でした。移動が大変でスケジュールもタイトできつかった。身体が本当にきついです。」と言うので診るとひどくないケースが多い。
逆に、「今回は東京だけなので楽です。」と言うので診ると酷いことが多い。
長年理由を考えていたが、最近ようやくヒントらしきものを掴んだ。
海外も含め地方公演だとまず心と身体が構える。
腹をくくるわけである。
そんな時にかなりきついスケジュールをこなしても、身体が既におりこみ済みなので酷くならない。
本人が口で酷いと言っているだけである。
逆に軽く見ているとちょっとのことで身体は反応する。
どうもこれは間違いなさそうである。
そう考えると今まで診てきた方達の身体の説明がつく。
人間、腹をくくり、意識・気持ちを変えるだけで、何事にも耐えられるのである。
病気は「気の病」だが、実に妙を得ている。
どんな状況でも気持ちで勝てばちゃんと身体は準備してくれている。
「高名の木登り」ではないが、心の油断が身体に対して1番悪い。

■高名の木登り
有名な木登りだといわれている男が、人を指図して高い木に登らせて梢を切らせたとき、とても危なく見える間は何も言わないで、降りてくるときに軒の高さくらいになったところで、「けがをするな。注意して降りろ」と言葉を書けたので、それを見ていた私が「これくらいの高さであれば、たとえ飛び降りたとしても降りられよう。どうしてそう言うのか」と申したところ、「そのことでございます。高くて目がくらみ、枝が折れそうで危ない間は、自分で恐れて用心しますから、注意しろとは申しません。けがは、安全な所になってから必ずするものでございます」と言う。

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