鬱病と仕事復帰について

鬱病の治療後、回復期に仕事に復帰するときは注意が必要である。私自身、これは何度か失敗をしている。鬱病の治療をしながら体調が回復してくると、「もう仕事に復帰しても大丈夫じゃない?」と言いたくなってしまう。しかし鬱病患者にしてみると、心の中で色々なものと闘っていて当然仕事の復帰も考えてはいるが、自分に納得いかなかったり、踏み出せなかったり、勇気がなかったり、色々な感情の中で揺れ動いている。そんな時、「仕事に復帰したら?」と言われると、「そんな事は判っている、自分で今その答えが出せないから悩んでいるんだ。」と言われてしまう。本当にタイミングとか難しい。患者の心の中がわかるわけではないから、こちらの一言で全て壊れてしまうことがある。そんな経験を何度かしていると、復帰したらが言えなくなってしまう。よく例えるのが、「砂漠でラクダをオアシスまでは連れてこられるが、その水を飲むか飲まないかはラクダ次第。」という話である。そんな時に大事なのが、家族の協力である。ご主人が鬱病なら奥様のアドバイス。息子ならお母さんのアドバイス。我々が治療すると言っても週に1時間程度だから、正確に本人の内情まで分からない。家族から本人の感情の変化や安定度が良くわかる。その家族から情報をもらい、色々と手を打つとうまくいく。家族から、「最近お父さん調子が良いみたい。以前やれなかった○○をやり出した。」とか、「最近娘が積極的に○○に取り組み始めた。」などを教えて頂ければ、我々もアドバイスしやすい。どうしても家族との協力体制は必要である。そしてその状況を会社も理解していただけると有り難い。一人の鬱病患者を社会復帰させるためには、これだけ多くの人がかかわっているのである。

image_print印刷する