医者の治ると患者の治る

長年この世界にいると医者と患者のずれを毎回感じる。
例えば風邪一つ取っても、医者の言う治るは症状がなくなることである。
咳や喉の痛み、発熱、鼻水など止まれば治癒である。
そのために症状を抑える薬を出す。
風邪はウィルスだから本来は治す薬など世界のどこにもないのだが、菌も混合感染といって起こしているので、その菌だけは抗生剤で抑えられるから症状が軽くなり、良くなったと感じる。
患者は風邪を引きにくくして欲しいのである。
以前患者から、「一生風邪を引かない身体にしてくれ。」と言われて、私自身、返答できなかった経験があるが、本来ウィルス感染は体力で治すのである。
がんも同じで抗がん剤ががんを治さないことは、ようやく少しずつではあるが広まってきた。

立花隆「がん生と死の謎に挑む」より引用
僕自身(立花隆)ががんになって癌関係のシンポジウムに招かれたときのことです。
それは朝日新聞の主催で開かれた、一般市民向けの大きなシンポジウムだった。
僕以外の演者はすべて、大学や大学病院のそうそうたる名医ばかりが集まっていた。
昼休みだったとき。
控え室でみなが雑談的にいろんな話をしていた。
いつの間にか話題が抗癌剤の事になっていた。
抗癌剤がどれほど効かないかの話を一人がしだすと、皆が具体的な抗癌剤の名前をあげて、次から次にそれがどれほど効かないかを争うかのように、話始めました。
「結局、抗癌剤で治る癌なんて、実際にはありゃせんのですよ」と議論をまとめるように大御所の先生が言い出すと、皆そのとおりだという表情でうなずきました。
僕はそれまで効く抗癌剤が少しでもあるのではと思っていましたが。
それじゃ「患者よがんと闘うなの著者の近藤誠さんの言っていたことが正しかったと言う事になるじゃありませんか?」と問うと、大御所の先生はあっさりと「そうですよ、そんなことみんな知ってますよ」と言いました。
私(立花隆)が近藤理論が基本的に正しいのだと、認識が大きく変わったのは、あの瞬間でした。

この話は有名である。
ある患者が、「私のがんは治りますか?」と聞けば、「がんの縮小と延命効果はあります。」と言うしかない。
抗がん剤もどれだけ縮小と延命効果があるかが指標である。
患者はがんをなくしたいのである。
がんは「笑う」「食事を変える」「身体を温める」などが有効で、医者の言うがんの治癒とは全く意味が違う。
結局、医者は「がんになったら来て。」と言うが、患者は「がんにならない身体にして。」と思っている。
この違いは当分埋まりそうにない。