不自由と不幸

これは以前、病院勤務時代に脳出血のご婦人を治療していた時の話だが、「私は50代で脳出血を起こし、主人に迷惑をかけ本当に不幸です。」と言う。付き添いで横にいたご主人がそれを聞いて「本当に手間がかかってね。」と笑いながら話されていた。この時の何ともご夫婦の表情が豊かで、幸福なご夫婦だなぁと感じた。仕事柄身体の具合の悪い方ばかり診ている。しかし身体の具合の悪いことと不幸は全く次元が違う。脳卒中の奥様は「不自由」なだけで、「不幸」ではない。不幸というのはご主人と仲が悪く、いがみ合ってばかりいることで、「不自由」と一緒に考えてはいけない。今でも病院研修で、ご夫婦のどちらかが病気で連れ合いの方が付き添われているケースをよく見るが、「全くうちの主人は手間がかかって本当に大変。大きな子供みたい。」とニコニコしながらしゃべっている。病院に付き添ってくれたり、食事の面倒を見て頂けること自体、幸福なことである。一緒に考えてしまいがちだが、「不自由」と「不幸」は別物である。