過渡期
鬱病で通っている常連さんが、珍しく腕にこりがある。本人は気にして、「原因は何ですか?」と聞いてくる。前回、背中が酷かったのでその影響なのか、何か腕を使ったのか色々と想像するが分からない。患者さんが原因を知りたがる気持ちは分かるが、こちらにしてみると原因を特定するだけの材料がないので、はっきりしたことが言えない。こういう場合は経験がものを言う。今まで何度も同じ体験をしているので、「おそらくこれは一過性のものだと思います。今までも説明のつかない身体の状態があって、そのあと治療したら全く問題がなかった。ではあれは何だったのだろうとなるが、身体には身体の都合がある。血流を変えたり、ホルモンを出したり、自律神経を整えたり・・・。我々には分からないことだらけ。しかしそのあとの身体を診ると過渡期の状態であまり原因を追及しても意味がない、ということがわかっている。以前、元気な社長が海外出張から帰ってきて、あまりに酷い状態だったので、『社長、こんなに酷い状態じゃ、もう社長業は続けられませんね。引退も考えなければだめです。』とその時の身体を診て言った。しかしそのあと数日後に来た時には完全に治っている。内心まずいことを言ってしまったと思ったが、事実は事実である。結局、我々はその時の身体の瞬間値だけを言っているのである。だから過渡期の状態を余り突いても意味はない。これは経験から分かっていることです。」と言ったら、「そうですか。では次回楽になっていれば終わる話ですね。」と言うので、「その通り。」と応えた。