おおらかな時代
常連さんに昔話をしながら少し思い出したことがある。以前、先生を育てる患者でも書いたが、バブルの前はおおらかな社長がいた。「この間頚が痛いときに腕をやってもらったら楽になった。今日は少し反対もやってくれ。」と言われやってみると、「これ良いね。試しに脛はどうだ。」と言われこれもやってみると、「益々いい。なんか頚だけやるよりも違うところから攻める方が効くんじゃないか?少し他の患者でも試してよければ教えてくれ。」と言われ、色々報告すると、「やはりそうか。理由は分からないが周りからやればいいんだなぁ。」と言って何か真理でもつかんだ感じになっている。たまたまその会社の従業員が頚を痛め、「社長、最近頚が痛くて鍼を打ってもらっているのですが効かないんです」と言われると、水を得た魚のように、「お前なあ、その先生は腕には打たないのか?」「打ちません。」「そりゃダメだ。頚の痛みは腕に打つかどうかで決まるんだ。知らないだろう。俺なんかは若い鍼の先生に教えてやっているんだ。しょうがない紹介してやるから今度はこっちにかかれ。」という話になり、電話がかかってくる。「うちの従業員なんだが通っている処で良くならない。腕にしっかり鍼を打ってやってくれ。それで良くなるから。」と指示をされる。それで良くなると社長はもう大変である。「それ見ろ。俺が言ったとおりだろう。俺があの若いのを実験させて育てたんだ。あいつには色々と教えてやった。」となる。当時はそういう社長が何人かいて、こちらもわからない治療の実験台になってくれた。ある時色々と考えて普段やらない治療をしたら失敗して、社長が「う~ん。まあ、こういう事もある。めげずに頑張れ。もう実験台はいいかなぁ。」と言われたこともあった。今から考えるとそういう方達に人生の生き方までタダで教わった。「男は家庭が安定すると浮気をする。」「うまくやったつもりでも晩年は必ず結果が出る。」「女房を泣かす奴は最低。」「女中には絶対に手を出すな。遊びたければ金で買え。」「うまく行っている人を見てうらやましがるな。そんなに長くは続くわけがない。」「手間仕事は真面目にやっていれば必ず客がつく。」「ギャンブルと女癖は直らない。」「割を食っているぐらいで丁度良い。」「見えないところで徳を積むと戻ってくる。」「最後は真心。」「人は必ず見ている。」「人生晩年が勝負。ずる賢い奴はダメ。」今思い出してもいくらでも出てくる。そういう社長に囲まれ、時代もおおらかで昔話に花が咲いてしまった。