期待値を下げろ

今日来た常連さんは病気の母親のことで姉と折り合いが悪いという。姉は弟を意のままに使いたい。弟は色々な事情で姉の言うとおりに出来ず悩んでいる。期待する姉とそれに十分答えられない弟との構図である。私は一人っ子だから姉弟の関係というのはいまいち理解出来ないが、想像するにおそらく姉にしてみたら、小さい頃から弟の面倒を見てきたろうから何か生意気なことを言われれば、「弟のくせに生意気。あの時助けてあげたのは私。」となるだろう。そうなると弟は何も言えない。弟だって面と向かって姉に色々と言われれば腹が立つ。ではこういう場合どうするかである。弟が姉の期待値を下げることである。何か言われたら、「すいません、役に立たなくて。」と言えばいい。そういう時に弟が、「役に立たないとはなんだ。」とやれば喧嘩になってしまう。「あんた、本当に役に立たない。」と言われたら、「そうなんです。期待しないで下さい。僕ダメなんです。食べるぐらいしか能がなくて。」と言えば良い。こういう会話を何度もしていると姉も馬鹿馬鹿しくなって、頼らなくなる。喧嘩はお互いのレベルが同じだから争うわけで、違うレベルになれば争わない。夫婦で奥さんが忙しい場合、時間がない中ようやく夕食を作り、ご主人に食べさせたとき、「何だ今日の夕飯はまずい。」と言われて、「私だって時間がない中、必死に作った。まずいとは何事。あなたが作って。」と喧嘩になってしまう。しかし奥さんが、「本当だ。まずい。やっぱり手間を惜しんで手抜きで作ったから仕方がない。じゃラーメンでも食べに行こう。」となればご主人は怒れない。我々の仕事も期待値が高いと本当に大変である。あるグループで当院のことが話題になり、何人も通ってきているので、紹介で新しく来る方はイメージが膨らんでしまって期待値が高い。並の治療では満足して頂けない。以前も、「おたくの噂を聞いて来た。前回まで大体1回の治療で腰は良くなったのに、なんで今回は2回必要なの?」と言われ困ってしまった。こちらにしてみるとこんなに酷いのだから、1回で治せないのは当たり前と思っているが、期待値が高いとこうなってしまう。だからそういう場合は、「そうなんです。あまりうちは治療成績が良くなくて治らないのです。僕も何処か良い所探しているのですがご存じないですか?」と聞けば、患者は黙ってしまうだろう。この期待値だが、人に求められても、人に求めても大変なことになる。見られる仕事の方は本当に大変である。昔ある女優さんが、マウイ島に別荘を買ったあと、「日本にいると何処でも『あ、○○だ。』と言われてしまうが、マウイでは誰も私のことを知らない。それが1番幸せでくつろぐ。」と言っていた。期待値は時に人を不幸にする。こんな話を弟さんにした。