脳の痛み記憶

昔ヤクザの方を治療していたら、ある時小指に包帯を巻いている。
「ちょっとしくじっちゃって・・・」と包帯が痛々しい。
「指を落としてから肩がこって仕方がない。先生、治療して。」と言う。
身体を診ると確かに肩こりは酷い。
切断した指の影響というより、神経も切って痛みに耐えて我慢した身体になっていた。
「先生、この指どうやって治めるか知ってる?」「わかりません。」「切った面を机などに叩いてぶつけて、少し神経をバカにしないと眠れなくなる。」「そうなんですか、知らなかった。」
仕事柄、いろいろな職業の方を診るが、業界専門の話は中々聞けない。
常連さんの中には痔の手術は成功したのに、相変わらず症状が抜けない方がいる。
何度先生に診てもらっても、「痛みが出る原因はここにはありません。」と言われてしまう。
これは脳が痛みを記憶しているために起こる現象で、実際にそこが悪いわけではない。
我々はそういう状況を、「道がつく」と言う。
一度どこか痛めた場合、身体はその記憶が出来る。
同じように刺激が入った場合に一度記憶した痛みを呼び起こす。
古傷が痛むような話である。
この1度出来た記憶は中々、しぶとい。
脳はどうも過去の経験則から反応しようとしている感じがある。
この過去の記憶、何とか上書きできないかと考えているが、どうも楽しいことや体が喜ぶことを繰り返し身体に覚え込ませることで薄まるようである。
過去からの判断も大事なのだが、常に身体は新しく楽しい刺激を入れ続けないと、どうも痛みからは解放されないようである。