先生はどうして鍼灸をやっているのですか

時々患者さんから、「どういうきっかけで鍼灸を」と聞かれることがある。高校時代は田舎の進学校に通い、たまたま算数が好きだったので、将来は数学者か工学系の電子関係かコンピュータのプログラミングでもと思っていた。その後大学受験に失敗して、東京で浪人生活をしていたときに鍼灸と出会った。それは今でも衝撃的で、丁度アメリカのニクソン大統領が訪中していて、全世界に鍼麻酔が公開された。映像では麻酔薬を使わず、手と足のツボに鍼を刺すだけで、全身麻酔と同じ効果を出し、患者のお腹を開ける。医者が胃を持ち上げ患者に、「ほら、あなたの胃はここが悪い」と言うと、寝ている患者は少し首を持ち上げ、「あ、そうですか。」と言う。これを見た瞬間自分の中の何かが壊れた。田舎で高校時代まで過ごし、培った常識が壊れた。それから「来年はまた受験がある。受かれば大学、落ちれば鍼灸」と決めていて、翌年また大学を落ちたので、方向性が鍼灸に決まった。スタートが常識が壊されたところから始まっているので、珍しい医学や変わった医学を見ても驚かない。根本的に「人の身体は宇宙というか、オバケみたいなもの」と思っているから、理屈で理解出来なくても、「そういうこともきっとあるはずだ」で終わり。こんな話をすると、「少し意外でした」と言われる。何処が意外なのかわからないが、この仕事を続ければ続けるだけ、自分の常識が壊される。きっとのめり込んで面白くて仕方がないのだと思っている。