やがてあなたは腹を切ることがあるかもしれません
これは大分昔の話だが、九州のある町から世が世ならお姫様が来た。先代がある城の城主だったという。その方が東京の中学校に来る時に、ばあやと一緒に来たという。そのばあやからある時、「あなたは世が世なら姫です。あの城を守るために、どけだけの家来が亡くなったか分かりません。やがてあなたは腹を切ることがあるかもしれません。その時は、こうやって家来は腹を切って死んでいったのかと思って耐えてください。分かりましたか。」と言われたが、当時は意味が分からなかったという。その後成人して、4回腹(肝臓がん、胆嚢炎、子宮と卵巣の手術)を切った。うちに来たときはその手術の後だったので、「この4回の手術は家来の辛さに比べればたいしたことはありません。」とは言っていたが、何とも因縁めいたものを感じた。仕事柄、昔の公家、伯爵、財閥、宮家の方を診ることが時々ある。そういう方達の体を診ていると、何とも言えない感触がある。これは私の手の感覚なので、言葉には出来ないが、敢えて言うとなんかこなれているというかしっとりとした感触である。こちらも長年の経験があるので、触った途端、「先祖お公家さん?」とか言ってしまう。すると「ええ、実は・・・」ということが何度もあった。結局人の身体は先祖からのつながりの上に成り立っている。医学的に言えば遺伝子という設計図通りという事になるのだが、どうもそれ以外に、そういう背負った運命まで身体に入り込んでいるに違いない。やがてこういう事が明らかになる時代が来るだろうが、先祖、自分、子孫と身体と運命の継承は寸分の狂いなく一直線に繋がれているといつも感じている。