痛くないときでも画像は必要

仕事柄、慢性腰痛で通われている方は多い。
そういう方達には、「例え今そんなに痛くなくても腰のレントゲンやMRIを撮っておきなさい」と伝えている。理由は今後5年、10年、20年、30年生きていく中で、平常時の腰の状態がわからないと、今後の治療方針に影響を与えるからである。
以前、腰椎椎間板ヘルニアの酷い方が来て、すぐにMRIを撮ってもらった。画像的にはそんなにすぐに手術するほどではなかったので、注射やリハビリで何とかしのいだ。その後、5年してまた腰が痛いという。すぐにMRIを撮ってもらったら、画像的にはそんなに悪化していないという。そこまでわかれば我々のリハで何とかなる。しかし骨や神経血管など病変が進んでしまえば、そんな簡単に治療は出来ない。それもどのくらいの期間で悪化したのかがわからないと、適切な治療法の選択が出来ない。
子供で例えれば、10年前から不良の子とここ2ヶ月突然不良になった子では対処法が違う。10年も前からなら、その子の性格だろうと思ってしまうが、ここ2ヶ月なら誰と付き合って何処へ行ったのかなど詳しく聞くだろう。病気も同じである。これは医者の立場になれば分かることだが、患者はそんな感覚を持っていない。痛くなければ医者に行こうとは思わない。「この程度の痛みはレントゲンを撮らなくても大丈夫」と勝手に思っている。この感覚が将来どれだけ不利になるかを職業的に知っているので、患者には必ずレントゲンやMRIを撮れと言っている。
もし腰痛患者が5年ごとに写真を撮り続ければ、かなりの病変になっても、医者は「ここ2-3年で骨の変形ね」と言って、適切な処置をしてくれる。しかし突然痛くなって昔の画像がなければ、どう判断していいのか悩んでしまう。私などは仕事柄、医者と患者の間にいるものだから、両者の気持は良くわかる。しかし事医療に関しては、医者がやりやすい情報を提供することが自分が救われる道である。
中々そういう感覚になれる患者は少ないが、「痛くないときでも画像は必要」を合い言葉にして今後5年、10年、20年、30年と備えていただきたい。