お年寄りとの会話
長年治療をしていると、特に年配者との会話で面白い事が起こる。「腰のどこが痛いの?」と聞くと、「ここここ」と言われ、そこに鍼を刺すと、「違う」と言われる。「え、じゃここ?」と言って触ると、「違う」と言われ、こちらも経験があるから、おそらくこのへんに反応が出るはずだと思い治療すると、「そうそうそこ」と言われる。「でもあなたが痛いと言った場所はここですよ」と触ると、今度は「そこじゃない」と言われてしまう。こんな経験を何度もしていると、段々とコツが分かってきて、年配の患者の話を段々聞かなくなってしまう。「どうせ、また正しいことを言わないだろう」と思ってしまう。以前からどうしてこう言うことが起こるのが疑問だったがある先生から、「脳の残像」と言う話を聞き、納得してしまった。我々もいくつもの仕事を並列で処理していると、頭がこんがらがってくる。一つ前のことが頭に残っているとそれを基準に考えてしまう。私も少しずつそういう年寄りの気持ちが分かるようになってきて最近は、「おそらく辛いのはここでしょうか、この痛みはこっちから来るので少し違う場所を治療しますよ」と説明をするようにしている。そうすると、先程のようなことは起こらず、「この間の鍼効いた」と言われるようになってきた。患者には自覚できる痛みとそうでないものが存在する。年を取れば自覚できる痛みも少し様子が変わってくる。そんな事もお年寄りの治療をする際にはとても大事だと最近感じている。