硬膜下血腫について

常連さんが久しぶりに来て、「転んで頭を打った後、数ヶ月してフラフラするので調べたら医者から、『硬膜下血腫です。すぐ手術です。簡単ですからすぐ終わります。』と言われ、手術の後、後遺症もなく少し落ちついたので来た。」と言う。この硬膜下血腫だが、聞き慣れない言葉かもしれない。これは脳を包んでいる膜が三層構造なのだが、一番外側の膜で触るとかなり硬い。その膜の下で出血すると硬膜下血腫と言って殆ど外傷が原因である。しかし困った事に転んだりしてすぐに症状が出ない。転んですぐに頭のCTを撮って大丈夫と言われると、それで多くの方は安心してしまうだろう。これはダラダラ出血する感じで、具体的に症状が出るのに数ヶ月かかる。これは以前、医学部教授から、「実はこの私が硬膜下血腫に気がつかなかったのです。数ヶ月前に東南アジアで調査をしていて少し転んだことがありました。その時は気にもしていなかったのですが、帰国後1-2ヶ月してから何となく集中力がなくなり、やはり70代になると年だなぁと感じていた。しかしその症状は酷くなるばかりでこれは年齢だけでは割りきれないと、教え子の脳外の医者に診てもらったら、『教授、これは硬膜下血腫です。僕がすぐ開けますから大丈夫です。』と言われた。手術が終わったら嘘みたいに症状がなくなって、年齢の問題ではなかったことがわかった。転んですぐ症状がでないのがくせ者で、私が悩むのだから気がつかなくて悪化させてしまう方は一杯いると思う。」という話を聞いた。普段と違っておかしいと思っても、お年寄りになると転んだ頭をぶつけたことすら覚えていない。ちなみにこの硬膜下血腫の手術、皆さんが想像するより担当する医者にしてみると楽である。患者さんの中には、「頭をドリルで開ける?とんでもないことだ。」と思っている方が多いが、我々の感覚では盲腸の手術より簡単なイメージがある。ある程度発見が遅れて脳が圧迫され続ければ後遺症は残るが、早期に血腫を取ってしまえば完治する。嘘みたいに治る。だから頭痛などの場合も硬膜下血腫を疑ってCT、MRIを撮ってもらう必要がある。以前、頭痛持ちの方が薬を頂いてよく効いていたが、2週間ほどするとまた痛くなる。違う薬に変えてもらったらまたよく効いた。しかしどうやっても痛みから解放されないので調べたら硬膜下血腫だったという事があった。これなら薬が効かない方が早く調べてもらえたのにと思ってしまう。何が功を奏するかわからないが、本人が転んだことを忘れ、数ヶ月後に出るこの硬膜下血腫、注意が必要である。

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