常連さんが股関節痛を訴え、専門病院を紹介した。診断の結果、「あなたが受けたいときに手術(人工関節)をどうぞ。」というものでパンフレットを渡されたという。患者の本音としては、「出来るものなら手術を受けたくない。」だろうが、我々から見ると少し違う感覚を持っている。では手術を回避したとする。何が必要かというと「減量(標準体重まで)」「筋トレ(1回90分、水中での歩行、週3回)」である。こればどれだけ大変かは経験のある方ならわかると思う。これだけやっても痛めた股関節は元に戻るわけではない。負担をかければ必ず痛みは出る。しかし手術の場合は、専門病院で自己輸血にロボット導入、入院2-3週間、術後翌日には普通食、殆どリハビリなし。数年後には手術したことすら忘れる方が多い。もちろん決めるのは患者だが、私ならすぐに開けてもらう。患者と話をしながらやはり手術に関しては我々と感覚が違う。何が何でも避けたいという感覚は分からないでもないが、以前に腎臓病の方が担当医に、「もう少し透析は大変だから様子を見ましょう。」と言われ続けて、辛い身体を何とかしようとよく当院に通われていた。血液の数字を見ると、どう考えても透析の対象者である。長年診てくれていた先生のご厚意なのだろうが、そのあと透析が開始された途端、体調が嘘のように楽になり、うちには来なくなった。何が何でも手術を避けるのが患者に対して最高の親切ではないことをその時に学んだ。やはり患者の人生を考え、通るべき所は通し、そのあとの幸福を与えるべきである。ちなみに股関節の手術をした患者の殆どはこちらが、「もう何年になりますか?」と聞くと、「何が?」と返ってくる。「人工関節ですよ。」「あ、忘れていた。」となる。1番困るのはこのままどうしようと10年近く経って、自分のやりたい事も出来ずに手術を受けた後、「こんなに楽になるならもっと前にやっておけば良かった。10年間、損をした。」が最悪のストーリーである。今は患者が手術をしたことを忘れるくらい技術革新と技術向上が目覚ましい。
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