私の家もそうだが、年老いた母が同じ話を繰り返す。母親も息子には言いにくい話も娘には遠慮がないから、母親からの電話にしつこいと感じている娘さんも多いと思う。同じ話を聞きながら、「ではこうすればいいじゃない。」と言うと、「あなたに何がわかるの?私は色々と考えてあなたに言っているの。」と反撃される。子供から見れば、大抵の親は時間もお金もあるから自由に何でもすればいいと思うが、親にしてみると、「そうしたくても色々な問題が頭をよぎり、中々そうもいかない。」となる。時間があっても夢を描けなくなる。若い頃なら多少の雨でも旅行となればすぐに行ってしまうが、年をとると、「雨じゃ、次にしよう。」となる。人との会食も若い頃は喜んで行くが、年を取ればちょっと体調が悪いと断る。年寄りにしてみると時間があるからいいというものではない。朝、目が覚めて、何となく気になっていることが頭を巡る。大抵は人間関係である。内容的には友だちにも言えないことがあるから、娘に電話をかける。同じ話を何度もするのはしゃべればしゃべるだけ本人の心の負担が減る、薄まるのである。これは本人が気がついているかどうかはわからないが、しゃべればしゃべるだけ楽になる。しかし娘にしたら同じ話を何度もされてたまらない。ではどんなことが負担なのかというと、例えばご主人がいる場合は居れば居たで、「全くうちのお父さんは・・・」と文句があり、居なければ居ないで、「全部自分でやらなくてはならないし、いないと不便」となる。友人関係、親戚関係でも話のネタは大体同じである。そういう意味では娘を持っている人は幸せである。息子に同じ事をしたら、「お袋、うるさい。」で終わり。まして嫁に言える話でもない。娘さんもやがてはお母さんのようになるのだから、多少、母親の話は反論せずに流しながら聞いて、これが母の心を軽くしていると思えば腹も立たない。これは娘が、「これでお母さんが楽なる」と思えるかどうかの修行である。
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