医者の腹づもり

常連さんが足の痛みが取れないと言う。足の外科で詳しく診て頂いたら、ある靭帯を痛めている事がわかった。
医者が、「これだけMRIではっきり出ているのて、まずは投薬で炎症を鎮めましょう。」と言ったら、患者が「先生、以前も薬は効かなかった。注射にして下さい。」と言って打って戴いたが効果がなかったという。
この話を聞きながら、「患者心理として以前、薬が効かなかったからもう薬はいいや。注射なら効くに違いない。」と考える気持ちは分かるが、おそらく医者は腹づもりで、「これだけの炎症だから注射で抑えるのは難しい。まずは投薬で様子を診る。それでもだめなら手術だなぁ。」と思っているに違いない。
しかし患者から、「先生、注射」と言われてしまえば、「では打ちましょう」になってしまい、医者がこのような環境下では本音を言いにくいだろう。手術を考えている事も患者に伝わらないかもしれない。
その後、何度か注射をやって効かなければ、「あの先生はだめ」となり、違う先生を求めるのではないだろうか。
当院に来ていただければ、著名なペインの先生や足の超専門家は紹介できるが、全ての先生が東京にいる訳ではない。
その地方の有名な先生に診て頂き、そこで手術を決めたとしたら、今まで診て頂いていた先生は、「え、そこで手術するの?それなら僕でも出来ますよ」となりかねない。
そもそも、手を専門、足を専門に診ている先生であっても根本として整形『外科医』である事を認識して戴きたい。
骨が折れたとか腱が切れたとかは得意で、手術で治す事を常に考えている。
しかし画像で異常がなく、患者に「何とか手術をしないで・・・」と言われてしまうと、医者にしてみると足を縛られて走れと言われているようなものである。仕方がないので投薬や注射はするが、最後は外科医なのだから開けて、「どんな術式で治そうか」と必ず考えている。
それを数回の注射が効かないからと言って、何処かの先生が開けるとなったらあまり良い感じはしない。本音では「そんな術式なら僕もやろうと思っていたのに、注射が効かないからと言ってあっちに行ってしまうなんて・・・」となるだろう。
結局、医者の腹が分からないと、中々患者が良い医療を受けられないのである。
医者とのコミニュケーションがいかに大切かが分かる。
理想を言えば、この患者が、「先生投薬で効かない場合はどうなるでしょうか?」と一言聞けば、「この炎症は最終的には手術になると思います。そんなに難しいものではないので、薬や注射が効かなくても治療法はあります。」となり、「では出来れば手術は避けたいのが本音ですが、場合によっては先生宜しくお願いいたします。」で終わり。
患者の思惑と医者の腹づもりはよくずれる。

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