先日、陸上の為末大選手のセミナーを聞いていたら、「100m走で今まで日本人はずっと10秒を切れなかった。しかし桐生選手が9.98秒を出したら、その後数人9秒台の選手が出た。これは皆がなんかやれば出来るのではないかと思ったからが大きいのではないだろうか。」と言っていた。この話を聞きながら、病院勤務時代を思い出した。
朝から晩まで、リハビリで日に多いと40人ほど治療する。腰痛や膝痛は一杯来る。狭い部屋でやっているから、プライパシーもないし、皆毎日来から、お互いの状況はよく知っている。そんなある日、中々良くならないおばあちゃんの腰か膝か忘れたが、痛みが楽になったら、「俺も楽」「今日は調子が良い」と数人に連鎖反応が起こり、普段楽になったと言わない方まで、「今日は少しいいかも」と言い出した。これには笑ってしまった。
これは当然逆もある。誰か一人が、「まだ痛くて全然ダメ」と言うと、「やっぱり痛い」と言い出す人が出る。
やはり人は「場」の影響を受けるのだと思う。
色々な学会に参加していても、講義の難しさではなく、「これはすぐに出来るかも」と感じる瞬間と、「こんなのは出来る訳ない」と感じる時がある。これは場の違いではないだろうか。
ベテラン患者さんの声を聞いていると、先生の技術の良い所によく通うかと言うとそうでもなく、自分にとっていい場と感じる所を選んでいるように思う。
セミナーの最後に為末選手に、「限界突破はどうしたら出来ますか?」と質問した方の答えに、「同じ環境の人とだけ交わるのではなく、色々な人と交流していく中で何か感じて出来るのではないでしょうか」と言っていた。
何か突破するには、新しい場の中に答えがあるという事を教わった気がした。