不便で目立たないことが身の安全を守る

若い頃は出張仕事もしていたので、港区や渋谷区の地理には詳しい。元麻布や松濤などの高級住宅地は基本的に交通の便が悪い。電車の駅はないし、車生活になってしまう。何故もっと便のいいところに引っ越さないのか疑問を持っていたが、仕事をしながら住んでいる人の声を聞くうちに理由が分かってきた。それは交通の便が悪い方が多くの人と触れることなく安全なのである。よくこんな細い道の奥に家があるのと思うことがあるが、門から入ってみると外からは想像がつかないぐらい豪邸が結構あった。豪邸は目立つところにあると危険なのである。うちに来ている女優さんも渋谷の町中を歩いたら、どれだけ写真を撮られるか分からないが、松濤なら歩いていても誰も写真を撮らないだろう。以前常連さんがフェラーリを買って、わざわざ遠くの高級マンションに駐車場を借りていたが、これも「木を隠すなら森の中」で、周りがベンツやロールスロイスばかりで、目立たず安全なのである。これが田舎にぽつんと豪邸があり、そこにフェラーリが置いてあったら目立ってしまい、「盗んでください」と言っているようなものである。この不便で目立たないということが、住まいの安全と人の人生の安全を確保している。不便は「手間のかかること」で、目立たずは「あまり派手なことはやらない」と感じていて、どんな仕事でも手間のかかることをすれば、人は中々真似できないし、目立つことをすれば注目はされるが、長続きはしない。結局、そういうやり方の方が人生が安全なのである。こんな所にも人が安全に暮らす知恵が隠されている。

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