80代のおばあちゃんが娘に付き添われて定期的に通っている。持病で腎臓病はあるのだが、ある時血液を採ったら悪化していた。数字的にはひどくなかったので娘から、「お母さん、この程度はたいしたことないじゃない。良かったわね。」と言ったという。それを聞いて私は、「それはダメですよ。『お母さん、腎臓も悪くなったからちゃんと治しましょうね。』と言えば、『頑張るわ。』となるが、たいしたことないと言ってしまえば、『若いあなたに何が分かるの。やがてあなたもこの年になれば分かるわよ。』と怒られると思いますよ。」と言ったら、「そうなんです。私から見れば母はどの医者に行っても異常はないと言われる。毎日散歩もしている。何処が悪いの?と思ってしまう。他の方から見たら何の問題もない。何時まで病人を続けているの?と思ってしまう。」と言う。「ではあなたが娘から、『お母さんの今の症状、たいしたことないじゃない。もう年なんだから、そんなに医者に通わなくてもいいんじゃない?』と言ったら何と言いますか?」と聞いたら、「それは腹が立ちますよ。若いあなたに何が分かるの?と言いますよ。」と言う。「じゃ、おばあちゃんと同じですね。人の心理の中に、病気であり続けることに安心する心理があるのです。病気なら娘は気を使ってくれて、付き添いもしてくれる。これが全部元気になってしまうと孤独になってしまう。ちょっと独特なのですが、そういう心理があるのです。だから、『お母さん、腎臓悪いんですものね。』と言えば、『そうなの。この間悪化したの。』と必ず言います。よく言われることですが、初めての妊娠の時に産婦人科でおじいちゃん先生は人気があります。先生から見れば孫娘みたいな子が来るわけですから、『初めての妊娠か、色々と辛いだろう。足は浮腫まないか?』となるわけです。ところが若い女医さんだと、『足の浮腫は妊娠中は誰にでも起こります。医学的に全く問題ありません。』と言われたら、妊婦さんは、『何あの医者。結婚もしていないし、妊娠のこと体験的にわかるわけないじゃない。』と言うでしょう。」と説明したら、「確かにそうですね。良くわかりました。」と言っていた。
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