肘の気持ち

以前からお薦めしないスポーツはテニス・スキー・ゴルフと言っている。その理由は簡単でそのスポーツをやった後に、必ず当院に来るからである。プールで泳いでいる方で、「髪の毛がまだ濡れているんです」と言ってくる人は1人もいない。一番やっかいなのが、ある程度時間的にもゆとりが出来、テニスにはまる方達である。そういう方達は全員、「青春」と「挑戦」と同じ事を言う。そういう方達は初めは週に1-2度やっていて、ダブルスなど組むと週3回ぐらいプレイするようになる。その後トーナメントとか試合で勝ち始めると、お誘いもあり、週に5回ぐらい練習する。学生時代からテニスの心得のある人なら、ある程度体の使い方も分かっているだろうが、中年になっていきなり始める方達は危険である。当然肘が痛くなり、医者に行ってレントゲンを撮り、注射をしてもらっても痛みが取れない方は多いので、当院みたいなところに来る。そういう方達は必ず、「来週試合なのです。早く復帰できるようにして下さい。」と言う。しかしこの肘の痛み、中々やっかいなのが現実である。構造的にはとても狭い範囲に多くの筋肉がくっついていて、その一部分に極端に集中して負担がかかり炎症を起こす。完全に構造的な問題があるのである。患者はそんな事は気にしていないから、「高い治療でもいいから早く治して」の一点張りである。そういう患者を診るたびに、「少しは肘の気持ちを考えて」と言いたくなってしまう。肘は間違いなく、「今まで僕に負担をかけない生活をしていたのに、突然テニスを始めた。それも週5回。いい加減にして欲しい。本来構造的に負担をかけられないのに、試合とか言って、ちょっと湿布を貼っただけでまた練習に行く。僕が痛いといっても、『ダブルスだと休めない』という。十分な休息、安静があれば僕は痛みを出さないのに、全くそう言う気持ちがないから、少しでも本人が悟るように当分痛みを出し続けよう。」と言っているに違いない。私などは仕事柄、常に身体の味方なので、肘の気持ちを代弁したくなってしまう。

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