常連でベテランの歯医者さんが、「年をとるとほんの少し体に油を差すぐらいがいい」と教えてくれた。
この先生は以前、腰痛で通われていて、今はすっかり良くなったが、良くなってからもメンテを欠かさない。
そんな先生がある時、「年を取ればほんのちょっとの油がいいんですね。徹底的にやっちゃダメですよ。歯だってそうなんです。」と言うので、「そういえば先生から紹介して頂いた腰痛患者さんが、『あの歯医者の先生に診て頂いても殆どしゃべっていて、歯を診るのは少しだけ。』と言っていました。でも話を聞くと先生に診て頂いている間は大きなトラブルにはなっていないと言ってました。勿論問題があれば治療するのでしょうが、ちゃんと管理下において、普段の治療はちょっと油をさす程度がいいんでしょうね。」と言ったら、「そのちょっとが大事なんです。身体だって若くはないんだから、一辺にやってはダメです。やったかやらないかわからないぐらいでいいんです。それがあとになって大きな差となってくる。若い頃は違うでしょうが、年を取ればそういうものなのです。だから私の治療もちょっとでいいんです。撫でたって効くんですから。」と教えてくれた。
この話を伺ったあとで、以前に著名な先生の治療を見学したときのことを思い出した。
鍼を刺しているんだか刺していないんだかわからない。こんなに弱くていいのという程度しか刺激をしていない。
当時こちらは若かったから、「その程度の刺激で効いているの?」と大きな疑問を持ったが、今になればその名人のやっていて事はまさにこのほんの少しの油であったと思う。
ようやくそういう事を理解出来る年になったが、時間が経ち、昔疑問に感じていたことが次々に分かりだしてきた。
そのペースで行くとあと数年もしたら、私の治療は軽く撫でる程度になるかもしれない。
その時は、あの先生も少し名人の域に達してきたのだなぁと思っていただきたい。