長年仕事をしていると、患者さんの言葉を真剣に聞かなくなる。「今日は先生、仕事もうまくいったし、心は晴れやか、身体は絶好調だ。」「そうですか、では拝見しましょう。・・・・・・・・・・・・・・。前回と殆ど変わりませんが・・・・・。」「そんな事はないはずだ。気持ちが全然違う。肩こりも感じない。」そんな会話をしながら腕や足など触ってみると硬い。本人も認めざるをえない。そんな会話を2-3回すると、「今日はどんな状態か見て欲しい。」と言っていて、自分で感じていることを言わなくなる。本人の感覚と私の言ったことがあっていれば、「やはりそうか。」と言うし、合っていないと「意外と前回の腰痛、長引いているなぁ。」と言う。これはどうして起こるかというと、心と身体のスイッチが別だからである。我々は常に身体のスイッチしか見ていない。本人は心のスイッチしか感じない。このギャップがこういう会話を生むのである。確かに大きな仕事が終わって、心のスイッチが入るのはわかるが、その仕事ギリギリまで酷使していて、そんなに簡単に身体がほぐれるわけがない。変わったのは心だけで身体は治るのに時間がかかる。どうすれば身体のスイッチを入れられるか、そこが我々の腕の見せ所である。長年やっていても方程式はない。常に現状を見ながら、くまなく、もれなく細かいところまで見落とさないように注視するしかない。やがてはこの心と身体のスイッチが自由自在に扱えるようになればいいと思っているが、まだまだ道半ばで遠そうである。
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