医学は科学、医療は物語

「医学は科学、医療は物語」この言葉はがんのセミナーで患者さんから教わった。
病気を研究するのが医学なので、がんなどはどうやって殺すか取るか、叩くかという話になる。
患者の死は西洋医学においては敗北を意味する。
だから新しい治療法が出るまで延命すれば、負けていないことになる。
よく聞く話で抗がん剤を使い続け、がんは大きくならなかったが、免疫不全の肺炎で亡くなれば負けたことにはならない。
そしてがんが大きくなった小さくなったが基準になってしまう。
だから○○の抗がん剤で△△延命したが基準である。
これは「医学は科学」である。
しかし「医療は物語」となると大分話は違う。
がんは大きくなったが、その方の尊厳を守れたとか、最後とても心豊かに過ごせたとか、蝕まれたからだから解放され、悔いなく霊界に行けたとかは物語である。
患者にとっては物語が大事で、自分の運命宿命と闘いながら、今日十分に生きられたことが大事である。
過去を振り返り、悔いがないとか、心残りがないとか、心配がないとか、患者にはストーリーがある。
私も病院勤務をしていたので良くわかるが、入院患者は病名で呼び分ける。
「あの肺がんの方」「あの脳卒中の方」
患者一人一人に生きてきた人生があり、たまたまその時期病気になったが、その方の物語は継続している。
だから入院中に自分の物語を中断したくないのである。
父を肺がんで亡くして8年になるが、緩和ケアでお見舞いに行くと、医者から看護師からかかわって下さっていた方達が、皆父の戦争での特攻隊の話を知っていた。
緩和ケアなのでゆっくり話を聞いて下さったのであろう。
自分はこういう風に生きてきた人間だという物語を語っていたのである。
保険制度の中、時間を割いて患者の物語まで病院が付き合うのは、現実問題として難しい部分はあるが、患者の不満の一部はこの物語を軽視している事とも関係がある。
人には歴史があり、患者が望んでいるのは自分の物語に光を当ててもらいたいのである。

image_print印刷する