これは古い話だが、病院勤務時代に毎週水曜日に東大から外科の佐々木先生が来ていた。アメリカで勉強していて当時、「1mmの血管も縫って繋ぐ。」と豪語していた。ある水曜日の夜、肩を大型工具で切ってしまった患者が運ばれてきた。その患者が先生の顔を見るなり、「あ、佐々木先生、あの時はお世話になりました。」「あ、あなたでしたか。今日はどうしました。」「肩を切ってしまって血が止まらないのです。」「わかりました診ましょう。」と言って押さえてある手を離したら大量出血だったという。他のドクターは全員、「切断しかないですね。」と判断をされたのに、その佐々木先生一人が、「いや、繋げます。繋げましょう。」と言って数時間にわたる手術をされた。この患者は以前にも佐々木先生に助けて戴いていて、もし曜日がずれたら腕の切断は免れなかっただろう。これは患者持っている運だと思う。長年この仕事をしていると、勉強したばかりの病気の人が来ることがある。治療する側にも運はあるが、どの先生とご縁があるかも、患者の運だと思う。昔話を思い出しながら改めて、この見えない運の怖さを感じている。
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