仕事柄、患者さんが「鎮痛剤は病気を治していない」と言われるが我々は違う考え方を持っている。身体が痛みに耐えていると神経は興奮するし、胃腸は動かないし、免疫は下がるし、良いことなど何もない。以前から、「我慢弱い生き方」を言い続けているが、中々日本人の中にある、「痛みに耐える文化」や「痛いと言うことが恥、はしたない」から中々抜けだせない。痛ければ薬でも神経ブロックでもすればいいと思うが、「それは病気の根本治療になっていなし、一時的に痛みを取っても治るわけではない」と必ず言う。では何故鎮痛剤を薦めるかであるが、例えば戦争をしている時に、ろくに食事や睡眠も取れず健康が維持できるだろうか。例え一時でも「休戦」となればちゃんと食事や睡眠を取り、心と身体が休める。そういう時に、「戦争が終わっていないではないか」と言われれば、たしかに「終戦」ではないから終わっていない。しかしその休戦でどれだけ体力が回復するかを考えれば、とても大事であることはすぐに分かる。鎮痛剤や神経ブロックも同じで痛くない間に免疫が元に戻ろうとする。ここが大事である。海外ではがんの治療に早い時期から鎮痛剤を使うし、最近ではがんの末期の緩和治療が延命に大きな威力を発揮することも分かっている。それだけ身体は痛みや不快を嫌う。心地よかったり、安心を好む。もちろん鎮痛剤が切れた後は色々と適切な治療を探すが、先ずは鎮痛が大事である。患者さんの中には、「ここに来るまで1週間私は痛みに耐え、頑張りました」と言う方がよくいるが、深層心理の中に、「私はこれだけ痛みに耐えて偉いでしょう」があるのではないかと思ってしまう。痛みは体の異常を知らせてくれる有り難い存在で、身体は「すぐに対処しろ」と言っている。痛みに耐えるから身体にしてみれば、「対処しないんだなぁ、じゃもっと知らしめてやる」ということで強い痛みを出す。「これでもう対処するだろう」と身体が思っても我慢してしまうのが日本人である。中々この遺伝子に入り込んだ思想は変えられないが、「鎮痛剤や神経ブロックは休戦状態」と考えれば少し変わるのではないかと思う。
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