父を亡くして10年になるが、時々昔を思い出す。父は交通事故で鞭打ちの後遺症、手のシビレをよく言っていて、親指にバンドエイドを巻いていた。今から考えれば首を痛め、橈骨神経がやられて親指が辛かったのだろうとわかるが、当時は傷もないのに何でバンドエイドを貼っているのだろうぐらいの感覚しかなかった。子供ながらに何とかしたいという気持ちも治療の道に進むきっかけになった。やがて鍼灸学校に通っているときに同級生にキネシオテーピングを開発された加瀬建造先生がいた。同級生なものだから、「建ちゃん、どうしてテープを貼るだけで楽になるの?」と聞いたら、「それは浅筋膜と深筋膜があって、テープを貼って元に戻ろうとするときに隙間を作るのだ。でも難しい話はお前にしてもなぁ・・・」で終わり。「おまえ、人間の最大臓器はわかるか?」と聞かれ、答えられず、「皮膚だよ。でも医者がそこに目を向けていない。皮膚こそ最大臓器なのだ。」と教えてくれた。その後、テープの開発に2年かかり、糊の性質や形状、皮膚の細かい動きなど研究して、キネシオテーピングとして世に出た。今では世界に拡がり、スポーツ界にはなくてはならない存在になった。そんな事があってここ数年筋膜リリース(ファッシアリリース)を学ぶために、日本整形内科学研究会に入ったら、浅筋膜・深筋膜や隙間を作る話ばかり。今から思うともう30年以上前に筋膜の隙間に目をつけて建ちゃんは開発していたことになる。やはり天才は違う。当然父はそんな事は知らないし、ただ楽だから貼っていただけだが、患者の何気ない行動の中に治療の大きなヒントがある。時々昔を思い出しながら、それを見落とさないようにしようと改めて思った。
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