常連さんから気になる本があるので、読んで感想を聞かせて欲しいという。
奥野祐次先生(オクノ クリニック院長)
ワニブックス
タイトルからして唸る内容なので一気に読んでしまった。
奥野先生はカテーテルでがんを治療をする専門医だった。
がん細胞は正常細胞より多くの栄養を必要としているので、血管を作ってしまう。
その血管に小さいサイズの粒子を入れ塞ぐことで、がん細胞を兵糧攻めにする治療が専門であった。
乳がんの患者さんを治療したら、長年の肩の痛みが楽になったという。
初めはがんからの悪影響がなくなったためと考えていたが、段々調べるうちに痛みの出ている関節のそばにモヤモヤ血管を見つける。
それが長引く痛みの原因であることを突き止め、慶應大学で研究を続けられた。
この著書の中にいくつも合点がいく指摘がある。
まず患部は暖めるのか冷やすのかがよく言われるが、臨床の経験上、どちらとも言えないケーかをあることを理解している。
痛いのは血行不良だから暖めればいいと言われるが、それだけで答えが出ない。
また患部を持続圧迫して、血流を止めて痛みが楽になることも知っている。
相矛盾することだが、このモヤモヤ血管ですべて説明がつく。
患部の血流が良いのはモヤモヤ血管の方だったり、そこを塞栓して痛みが治ることもすべて合点がいく。
本を読み終えて、患者を送りたくなった。
まだまだ知名度はないが、こういう若い先生ががんという別の分野から、長引く痛みの問題にメスを入れてくれたことを嬉しく思ってしまう。
今まで当たり前と思っていたことがひっくり返り、新しいアプローチがやがては標準治療になっていく。
いつの時代もそうだが、新しい幕開けを感じる著書だった。
追記
後頭神経痛を訴えてくる方が時々いる。こめかみの頭痛なら薬で楽になることが多いが、後頭神経痛は難病化することがある。以前診ていた後頭神経痛の方は何をやっても治らず、日本中の病院で診てもらったが唯一良かったのが、頭の血管造影をしたときに嘘みたいに楽になったという。これば偶然だろうが、血管内に造影剤を入れてたまたま何かのスイッチが入って効いたのだろうが一般的ではない。検査してくれた病院で、「今まで何をやっても効かなかったのです。また造影剤を入れてください。」と言ったら、「あれは検査で治療ではない。」と言われたという。こんな体験をしたこともモヤモヤ血管に興味を持った理由である。