「身体の中の父ちゃん母ちゃん」の話は患者さんにはよくしている。例えば右膝が痛い場合に我々はまず左足から診る。反対側の足に余裕がない場合は患部の痛みが強くなることを体験的に知っているからである。そこをちゃんと説明しないと、「私は右膝が痛いと言ったのに、この先生反対の左ばかりを治療している。人の話を聞いていないか、右も左も分からないのでは・・・。」と言われてしまう。痛い右膝を「父ちゃん」、痛くない膝を「母ちゃん」に置き換えて、「父ちゃんが具合が悪くて寝ている場合、母ちゃんはご飯の支度をしたり、面倒を見たりで大忙し。母ちゃんが元気なうちは父ちゃんは黙っているが、母ちゃんが倒れると父ちゃんは『俺の飯はどうした?』と怒り出す。その場合、病気の父ちゃんを治すより、疲れている母ちゃんを治す方が楽。だから反対から治療する。」といつも説明している。実はこの話は私が病院勤務時代に実際に見た光景である。救急病院だったので、脳梗塞や交通事故は多い。私が病棟回りをしていたときに、脳梗塞で倒れたご主人は寝ているだけなので、いつも血色がいい。朝から昼寝である。一方奥さんの方は食事の世話から、買い物、洗濯、子供の面倒と大忙しである。私が回ったときにはご主人の寝ているベッドに疲れ果てて倒れている。ご主人のリハを始めると、「先生、寝過ぎて少し腰と背中が痛い。」と言う。それを横目で疲れ果てている奥さんが見ている。「パパは寝ているだけじゃない。」という眼で。ある時この奥さんが辛すぎて治療におみえになった時、治療後は何とも言えないスッキリした顔になり、それ以来ご主人のお世話を楽にこなしているように見えた。それを見て、「このご主人の解決策は寝ているご主人ではなく、疲れている奥さんを優先することだ。」と気がついた。こんなブログ一つにもドラマがある。
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