2004年6月30日 第7回発表資料

花田「痒みへ灸はどうでしょう」
村田「母指の弾撥指について-追試-」
田中「交感神経を鎮める治療技術に関して」


 痒みへ灸はどうでしょう   花田

蚊に刺されると痒くなります。思うところがあったのでイロモノ的かもしれませんが、実験してみました。

蚊は人を刺す時に血液凝固を防ぐため、ある化学物質(タンパク質)を注入します。体の反応は、異物侵入に対する免疫反応(治癒反応)としての炎症で、それが痒みの原因となります(化学物質を倒そうとする際に放出されるヒスタミンなど)。蚊の口先に付いている雑菌が体内に入り込んで、それが原因だという説もあります。痛みと痒みというのは知覚としては同じ範疇にあります。蚊の毒の特性では痒み程度の反応となります。

痒みが治まるにはこの炎症反応(異物処理)が終了するのを待つしかない。ところが巷の痒み止め薬というのは、この炎症反応を抑えるもの(抗ヒスタミン薬やステロイド薬)です。治癒反応の証しである痒みも、できれば感じたくない。だから治癒が遅くなっても、なるべく消炎して痒みを低いレベルにとどめる。これが虫刺され薬なのではないでしょうか。それはそれで良いと思える。

では薬を使わない治療として灸は如何なものか。

【実験】

刺された箇所…ほぼ同時刻に3箇所(前腕2、下腿1)。

施灸前の状態…刺されてから30分以内で、発赤程度(直径1cmほど)。

・前腕1には周辺3箇所に施灸。点灸各3壮。

・前腕2には周辺3箇所に施灸。カマヤミニ各3壮。

・下腿は放置することにした。

施灸直後…前腕の二箇所とも痒みは減少。腫れに変化なし。  数時間後…また痒くなった際に同条件にて施灸。痒み消失。

何もしなかった下腿箇所は痒みも目立ち、数時間後には腫れも直径4cmほどに。

翌日…起床時、全ての箇所に痒みあり。前日と同条件で施灸すると、痒みは即消失。腫れは変化なし。

ここで問題発生。カマヤミニの箇所で、大きな水泡が一つできる。数十分後、腫れも酷くなった(下腿よりも)。刺激量過多か。

ただし、痒み自体については点灸よりもカマヤミニの方が効果ありました。痒みの鎮静には熱伝導時間の影響も大きいのかもしれない。

【再実験】

また刺されたので、今度は患部へ直に施灸を試みてみました。刺されたど真ん中です。image004ssff

状態は前回実験時と同じ程度。ほぼ同条件と考えていいと思います。

・糸状灸  壮数3

施灸直後・・・痒み消失

12時間後・・痒みは感じないが、腫れは同じ状態image006111

24時間後・・痒み無し。腫れはひとまわり小さくなり発赤も減少

これが一番効果あり。面白い具合に痒み・腫脹共に減少。

※間に仕事などを挟んでいたため、実験に徹していなかった面あり。同じ種の蚊であったかも不明ですし、データとしては穴だらけです。

今回の虫刺されに対する灸治法は、ツボも関係ない対症療法です。ならば薬の方が手っ取り早いでしょう。

ただ、日常的な灸養生によって免疫力(白血球バランス)を適正に保つ事ができるのであれば、「刺されても酷くならない体」に持っていく事ができるのではないでしょうか。鍼や指圧でもいいかもしれません。これからの課題でしょうか。


 

母指の弾撥指について-追試-

前回の母指弾撥指に対しての追試になります。

1.小円筋・大円筋もしくは腋窩神経

  • 2.頸部C8~T1
  • 3.前腕部
  • 4.体全体の緊張

再発、症状の再燃

体全体の状態

特異的に“効く”Pointの存在の可能性

2004.6.24  ムラタ


 

交感神経を鎮める治療技術に関して         東洋鍼灸院 田中俊男

問題提起: 臨床で交感神経優位でなかなか興奮が冷めず、過緊張の方をよく診ますが何処を治療したらいいのか、
考えてみたいと思う。

説明: まず、刺激に対して正常な反応の場合、理性を司る大脳新皮質が身体のcontrollをしていると言われている。
しかしストレスがかかった場合は自律神経を司る視床下部がcontroll出来なくなり、本能を司る大脳辺縁系にも
影響する。大脳辺縁系はその刺激により自律神経のバランスを崩す。

<交感神経と副交感神経について>
◆ 交感神経と副交感神経は車のアクセルとブレーキのような関係です。
交感神経と副交感神経の働き image002k
心臓では交感神経優位で動きが速くなり、血圧も上げます。
胃腸では促進するのが副交感神経の働きです。
神経伝達物質は交感神経がアドレナリン、ノルアドレナリンに対して、
副交感神経はアセチルコリンを主に使います。

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考え方: 交感神経優位で血管をしめるのでどうしても末端への血行が悪くなる。心臓から遠いところが固くなってくるわけだ。
特に頭部、前腕、下腿が影響を受ける。場所でいうと頭頂部(百会や前大脳動脈反応点)、正中神経
支配域の屈筋、前脛骨筋などに反応が出てくる。
しからば治療でも末端から攻めていけば、交感神経の興奮を静められるのではないかと考える。
但し末端の治療で痛みを伴うとかえって交感神経を働かせてしまうので、あくまで痛みをあまり伴わない方法で
徐々に治療していく方法をとる。

治療技術: 頭頂部: 治療ポイントは①百会周辺、②左右前大脳動脈反応点である。
①百会周辺 正中線上に百会以外でもよく反応が出るのでそこも見落とさない。(上星付近)
百会は正確に交点とは限らない。時に動き百会自体でも角度によって感じ方が
違うので注意が必要。
ツボだけ何点か取ると必ずしも直線にならないことがある。
②前大脳動脈反応点 もちろん左右1本ずつだが、左右対称に反応点が並んでいるある場合の方が
少ないように思う。
治療の仕上げの段階でようやく、左右対称になるケースが多い。

前腕屈筋部: 治療ポイントは①正中神経、②浅深指屈筋である。
①正中神経 この神経の経路は正確に肘の中点と手首の中点を結んだところである。
浅指屈筋と深指屈筋の間に挟まれているので、深指屈筋まで刺激が届いて
初めて正中神経を治療できたと言える。
②浅深指屈筋 治療しながら、指の屈曲を確認していただきたい。
正中神経とは経路が違うので注意。(上腕骨内側上顆)

前脛骨筋部: 治療ポイントは①前脛骨筋、②胃経である。
①前脛骨筋 非常に深みのある筋肉ですから、角度やツボの位置が大切。
筋肉の膨隆部と深腓骨神経経路の考え方は色々。
②胃経 足の三里のツボ位置の考え方。大腿四頭筋の反応点。

考察: 末端を治療して血管を拡張させ、筋肉を緩めて副交感神経が少しでも優位な環境を作る。
治療が進み、患者さんの呼吸がゆっくりになってくれば他の部分の緊張も取れ、
交感神経の興奮を抑える治療としては有効だと思う。