大分前の話だが病院勤務時代に救急だったので交通事故で骨折の方が多く、リハビリを担当していた。当然歩行訓練をするわけだが、杖をどちらに持つかで揉めていた。「痛めた足側を支えるから痛い側」「痛い足に負担をかけないために痛くない側」「痛めた足側に杖を持ち、滑ったらこけてしまうから痛くない側」と色々に意見が出て患者さんもバラバラ。気になって調べたら、「痛くない側」に持つのが正解らしいということがわかった。痛い側に持ってしまうと何かの時に不安定になるが、痛くない側に持てばいざという時にも、対応出来るのが理由らしい。今まで痛い側に持っていた患者に指導をして痛くない側に持ってもらったら、「慣れていないからやりにくかったけど安定する。」と言われ、それ以来「痛くない側」を勧めている。最近の杖は地面に接する部分が4つ足になっていたりと色々工夫されている。杖で思い出すのは義理の母である。何の木だか覚えていないが杖によく使う木の蔓で作った杖を愛用していた。気になって色々と調べてみた。どれぐらいの強度があるのか試したが、こちらの想像を遙かに超え、荷重をかけてたわむが全く折れる感じがしない。そして極端に軽い。義理の母が手放さないわけである。最近は4つ折りになったり携帯に便利なものもある。やはり杖は持っていると周りの方が注意してくれる。電車の中では席を譲られるだろうし、実際につかなくても持っているだけでも人の眼は違う。それが自分を守ることになる。ある程度の年令になったら、恥ずかしがらずに持つことを勧めている。以前患者さんで杖をついてきたおばあちゃんが、治療が終わり杖を忘れていたので慌てて追いかけたら、ちゃんと真っ直ぐ歩いていた。「杖忘れました。」と言って手渡した途端、かっくんかっくんと歩き出しので、思わず笑ってしまった。本当はもういらないのではと思ってしまった。おそらく家族の手前、杖をついていた方が優しくして頂けるのではと邪推した。杖にはこんなに思い出がある。
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