しっかり脇の下のがんも取りましたから

乳がんの術後の患者さんの相談が何故か最近は多い。「母が乳がんを手術をして頂き、医者から『脇の下のリンパまでしっかり取りましたから安心してください』と言われ、本当に良かったと思います。」と言う。子供にしたらがんの再発や延命のことを考えたら当然有り難い話だが、我々は少し違う感覚を持っている。それは「脇の下のリンパ節郭清(かくせい)をしっかりやったら、手が使えなくなってしまうではないか」という事である。もちろんがんを残しておいていい話ではないのだが、術後に何が起こるという事まで説明して欲しいと思ってしまう。もし手術を受けた患者が80才近くで1人暮らしの場合、果たして買い物、料理、後片づけなど、手術前と同じように手を使えるだろうか?もちろん手術の程度にもよるが、私なら家族に、「術後は施設も視野に入れて考えた方がいい。」とアドバイスしてしまう。それくらい生活に制限がかかってしまうからである。手術を受けた本人は、「悪い物は取ってもらったし、これで今までの生活に戻れる。」と思っているだろうが、手の浮腫のリンパ浮腫はそんなに簡単には治せない。以前プログで、「乳がんリンパ節郭清と手の浮腫」を書いたが、簡単に元通りになりますというものではない。これは想像するに、腫瘍内科の先生は頭に中にがんしかないから、「術後あまり無理して手は使わないで」とは言うだろうが、「施設を考えなさい」とは言わないだろう。患者や家族がこのリンパ浮腫のことを知らないで、母親が自宅に戻ったあと、「最近手が浮腫んできて使いものにならない。こんなに腫れるなんて言われてなかった。何をやっても元に戻らない。最近は家事がほとんどできない。」と言ってきたら、「手術した先生から少しは注意されたが、こんな事になるとは思っていなかった。これなら手術が終わった後から考えておくべきだった。」となるのではないだろうか。「脇の下のリンパまでしっかり取りました」は有り難いことなのだが、その後に何が起こるという事までは中々説明はされないと思う。我々は立場的に医者と患者の間に入る。医者の気持ちも分かるし、患者の現状もよく知っている。これは理想論だが、手術が終わった後に医者から患者に一言、「脇の下のリンパを取りました。今後はあなたの年齢を考えると、以前のように中々手は酷使できません。その時はその状況に応じて環境を変えることも視野に知れてください。」と一言あれば、いいと思ってしまうのは私だけだろうか。

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